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 青年マンガの最前線で活躍中の人気作家・浦沢直樹にスポットを当てた『浦沢直樹展 描いて描いて描きまくる』が、東京の世田谷文学館で開催されている。

 浦沢直樹は1960年、東京生まれ、大学時代に小学館新人漫画賞に入選し、1983年に「ゴルゴ13別冊」に掲載の『BETA!!』でデビューを果たす。「ビッグコミックオリジナル」で『パイナップルARMY』、『MASTERキートン』などを連載した後、「ビッグコミックスピリッツ」連載の『YAWARA!』は、テレビアニメ化されて社会現象にもなった。また『MASTERキートン』、『MONSTER』もテレビアニメ化され、『20世紀少年』は三部作の大作として実写映画化もされている。さらにマンガ家としての受賞歴も『MONSTER』と、手塚治虫の『鉄腕アトム』の人気エピソード「地上最大のロボットの巻」をリメイクした『PLUTO』が手塚治虫文化賞マンガ大賞をそれぞれ受賞し、また『20世紀少年』はフランス・アングレーム国際漫画祭で最優秀長編賞も受賞するなど、数多い。そして2007年から2015年に名古屋造形芸術大学の客員教授としてマンガ創作を指導し、最近ではマンガ家の作画技法をドキュメントするテレビ番組『浦沢直樹の漫勉』(NHK Eテレ)に企画から関わり、自ら進行役として出演もしている。

 1995年に開館した世田谷文学館は、これまでにもマンガに関して2012年に『地上最大の手塚治虫展』、2015年には『岡崎京子展』などを開催してきた。その名のとおり、世田谷区南烏山にある同館を訪れると、1階の受付ロビーには浦沢作品の人気キャラクターの立て看板が並び、2階の展示室入り口では『MONSTER』に登場する少女の看板が、不気味な笑顔と共に迎えてくれた。展示会場では撮影スポットとして、この入り口と、展示会場内には『21世紀少年』に登場する”ともだち”の立像の二ヶ所が用意されている。

 まず展示会場に入ると、現在連載中の『BILLY BAT』のカラー原画と、ネーム(ラフな絵とセリフ、コマ割り)が書かれた下書きが並べて展示されている。その先には浦沢が作画する様子を収めた映像が上映され、さらにカーテンの奥にはこれまでの単行本と、受賞した数々のトロフィーやメダル、エンブレムが並ぶ。

 そして中央の展示スペースには数々の直筆原稿が展示され、特に『MONSTER』は、最終章の全てを読めるようになっていて圧巻である。浦沢作品は達者な絵だけでなく、絶妙なコマ割りやセリフなどによって構成されていることが実感できると共に、浦沢直樹の膨大な仕事量にも圧倒される。

 また壁面に並んでいるのは拡大された原画の画像と、扉絵やネームの下書き等々。中でも興味をそそられたのは『PLUTO』のアトム登場シーンのネームで、当初は手塚治虫が描いたアトムそのままの、ツノ型の頭髪姿の少年であったことが見て取れる。

 続いて浦沢直樹の年譜と共に、彼が小学生のころからノートに描いていた数々のマンガが展示されている。その中には手塚治虫だけでなく、虫プロのアニメーターとしても知られる坂口尚、村野守美の作品を彷彿とさせるキャラクターも見られ、プロデビューするまでに時代ごとのマンガの影響を受けて成長してきたことがよくわかる。そればかりでなく小学生のころからしっかりとしたコマ割りを行い、ストーリー性の高いマンガを描いている。

 さらに大学時代のルーズリーフノートのインデックスに、教科別の教師の似顔絵が描かれているのだが、これがまた素人離れした上手さである。その一方で、これだけ学生時代にマンガを描き続けていながら、同人活動はしていなかったらしいことも興味深い。

 年譜には続いて、大学生時代の就職活動の際、小学館で面接した時にマンガ原稿を持ち込んだのが同社の新人賞受賞に繋がったこと、そこから「一年やってダメだったらやめる」という覚悟の元に、大学卒業後にアルバイトをしながらネームを書き続けたことなどが綴られている。

 そしてデビューした時にはほぼ現在の絵のスタイルが完成しているのだが、時期的には大友克洋を旗手とするニューウェーブ・コミックが台頭した後であることを考えると、デビューまでに以前に模倣したマンガのタッチから脱すべく、相当な覚悟を持ってデッサンを重ねたのではないか。詳細な年譜を読み進めていくと、そんなことまで考えさせてくれる。小学生のころ描いたマンガから展示しているというのも、そこから常に描き続けて来たからこそ今があるのだということを、後進に示しているのだろう。

 また最後の展示となるイラストレーションのコーナーでは、ブルース・ミュージシャンやロック・ミュージックのアルバムジャケット、コミカルな動物の擬人化イラストなどが多彩に飾られ、浦沢の表現の振り幅の大きさが示されていた。

 そうして見終わってから全体について言うなら、浦沢直樹を一から知ろうという来館者にも、またファンにとってもわかりやすく、そして丁寧な展示内容になっていたと思う。そういう意味で30年以上のマンガ家生活を通じ、数々の話題作を世に送ってきた浦沢直樹の全貌を見せる初の本格展として、この『浦沢直樹展 描いて描いて描きまくる』は十分以上に期待に応えるものであった。

 ちなみに会場では浦沢自身が行っているバンド活動も紹介され、彼が自作した二枚のCD『半世紀の男』と『漫音』を試聴することができるだけでなく、物販コーナーでは単行本と共にそのCDも販売されている。これは『20世紀少年』で浦沢が自身を投影した主人公・ケンヂが、その曲を作品中でコード付きで歌っていたことを知るファンなら、思わずニンマリとしてしまう趣向といえるだろう。なおこの展覧会では小学館刊行の展覧会公式ブック『浦沢直樹 描いて描いて描きまくる』が、カタログとして販売されている。

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会期:2016年1月16日(土)〜3月31日(木)

会場:世田谷文学館

http://www.setabun.or.jp/

住所 〒157-0062東京都世田谷区南烏山1-10-10

電話 03-5374-9111