●レポート「早坂文雄 没後60年コンサート」

 東京交響楽団の「現代日本音楽の夕べ」シリーズ第18回として、去る10月10日(土)に「早坂文雄 没後60年コンサート」が神奈川県川崎市のミューザ川崎シンフォニーホールで公演された。1914(大正3)年、宮城県に生まれた早坂文雄は札幌の中学卒業後に独学で音楽を勉強し、作曲家として身を立てた後の1939(昭和14年)に音楽監督として東宝映画に入社。以後、黒澤明監督の『羅生門』や『七人の侍』、また溝口健二監督の『雨月物語』や『新・平家物語』など数多くの名作を、音楽の面から支えることになった。一方で数々の現代音楽も作曲しながら、旧知の仲だった伊福部昭と共に戦後の日本映画を彩った早坂文雄は、しかし1955(昭和30)年に交響的組曲『ユーカラ』を初演した後、黒澤明の『生きものの記録』の音楽を作曲中に41歳の若さで他界。2015年に東京・世田谷美術館で開催された「東宝撮影所展」でも、亡くなる直前に早坂文雄が黒澤明に宛てた書簡や、映画音楽の楽譜などが展示されている。

 今回のコンサートはそんな日本現代音楽の巨匠・早坂文雄の代表的な映画音楽の演奏に加えて、彼が音楽を担当したアニメーション映画『ムクの木の話し』の演奏を上映付きで初演したものである。指揮は大友直人で、演目は以下の通り。

映画『羅生門』から、真砂の証言の場面のボレロ。

交響的童話『ムクの木の話し』(アニメーションの映像付き)。

交響的組曲『ユーカラ』。

 では当日の様子を、実際の鑑賞を通して紹介していこう。

 まず演奏されたのは、これまでにもCD収録やオーケストラ演奏が行われている『羅生門』の音楽から、武士の妻・真砂(役者は京マチ子)が事件の証言をする場面に付けられたもの。「ボレロ」とあるようにラヴェルのバレエ音楽から着想を得ているが、平安時代を舞台とした時代劇に違和感のない音色と旋律になっている。

 次の『ムクの木の話し』は”交響的童話”と銘打たれたように、東宝教育映画部が1947(昭和22)年に製作した子供向けアニメーション映画に付けられた音楽で、22分の上映に合わせて生演奏が行われた。映画が始まると鳥たちがさえずる森に、「氷魔が来るぞ」と冬の到来を告げる声が響く。狼のようなシルエットの氷魔が襲来すると、その手下たちは木の枝を凍らせてナチスの鉤十字のような形に変えることから、冬が戦争を暗示していることは明白だろう。そこに春の象徴の女神が太陽の光を背にして現れるが、女神の姿は真っ白な石像の実写によって表現されている。さらに女神の光が氷魔を弱らせるシーンでも半立体の素材が使用されるなど、『ムクの木の話し』は作品全体に早坂の音楽が奏でられているばかりでなく、映像にも様々な実験的な手法が見て取れる。

 この作品は以前に東京国立近代美術館フィルムセンターでも上映されたことがあり、今回の鑑賞はその時に続いて二回目となるものの、生演奏を伴った上映の印象は全く異なるものとして感じられた。それは製作当時の録音技術では再現できなかった音の設計が、初めて早坂の意図に沿う形で実現されたためと言えるが、その瞬間を直に体験できたことは大変に貴重であった。

 そして最後を飾る交響的組曲『ユーカラ』。こちらは同じ早坂の作品でありながら、映画音楽とは大きく異なる旋律、構成に大いに驚かされた。早坂文雄が病気の体を押しつつ、一年もの時間をかけて作曲した力作であり、間もなく41歳で亡くなったことを思うと改めて夭逝を惜しまざるをえない。それだけに今回のコンサートはアニメーションの埋もれた名作『ムクの木の話し』を演奏付きで発掘したばかりでなく、映画音楽を含めた早坂文雄の音楽世界を回顧する得難い機会となったと言えるだろう。

 またこのコンサートばかりでなくここ数年の傾向として、オーケストラ演奏に映画上映を組み合わせた”ライブ上映の演奏会”が増えてきている。早坂文雄の盟友だった伊福部昭に目を向ければ、2014年7月には「第4回伊福部昭音楽祭 生誕百周年記念 〜ゴジラ生誕60周年とともに〜」が催され、『ゴジラ』デジタル・リマスター版の上映に合わせて生演奏された映画音楽全曲が好評を持って迎えられた。そのため今年の1月にも『ゴジラ音楽祭』として再度開催されることになったが、これはこれまで『ゴジラ』を始めとする映画音楽の楽譜の研究が進められ、その演奏会が何度も開催されてきたことの集大成とも言えるものである。『ゴジラ音楽祭』は会場がNHKホールであったため、演奏者のためにホール内を暗くできないという上映には不向きな条件であったが、生演奏が大迫力だったばかりでなく、音色も際立つほどに明瞭。おかげで映画もこれまで経験したことの無い強い印象を伴って、観客の心に直接響いてくるような実感を味わうことができた。なおこの『ゴジラ音楽祭』は来年に、京都でも開催予定となっている。

 また伊福部昭のコンサートを手掛けてきた音楽レーベル・スリーシェルズの主催により、『マジンガーZ』や『戦隊シリーズ』などアニメ・特撮の名曲を多く作曲してきた渡辺宙明の卒寿記念コンサートが今年8月に開催されたが、こちらも次回が来年に予定されている。

 さらにアニメーションで言えば今年の9月23日、「オーケストラと映像で描く手塚治虫のマンガとアニメの世界」が東京・池袋の東京藝術劇場コンサートホールで開催。これは1962(昭和37)年の手塚治虫のアニメーション『ある街角の物語』の音楽を作曲した高井達雄による”管弦楽ファンタジー”と銘打たれたもので、再編集した映像が付けられた生演奏が行われた。

 今年はほかにもティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』と『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』の演奏付き上映が「ディズニー・イン・コンサート」として行われ、こちらでは音楽と主人公ジャック・スケルトンの声も担当した作曲家のダニー・エルフマン本人が来日して歌ったこともまだ記憶に新しい。続けて10月には『ゴッドファーザーLIVE』が開催され、11月には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『2001年宇宙の旅』の上映付のコンサートが。また映像上映は無いが映画音楽のコンサートとして、新シリーズを控える『スター・ウォーズ』コンサートが11月に、続く12月にはバリー・グレイ作曲のオリジナル映画音楽を演奏する『サンダーバード』コンサートが予定されていて、しばらくは同様の企画が目白押しの状態だ。

 これらはただ”演奏会”として告知・宣伝されるため、映画ファンやアニメファン向けの情報として引っかからない場合もあるのだが、通常の劇場での上映やパッケージソフトでは得られない迫力と感動が体験できる貴重な場であるからには、参加する意義は少なくない。ぜひとも機会を捉えて、足を運んでみてはどうだろうか。

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『バック・トゥ・ザ・フューチャー in コンサート』

11月23日(月) 東京国際フォーラム

『2001年宇宙の旅』コンサート

11月25日(水)、26日(木) 渋谷Bunkamura

http://www.kajimotomusic.com/jp/concert/

http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/kashi/20151125.html

『サンダーバードinコンサート2015 トレイシー・アイランドからの招待状』

12月27日(日) 東京国際フォーラム

http://www.kyodotokyo.com/thunderbirds

『ルパンⅢ世コンサート LUPIN!LUPIN!!LUPIN!!!2015』 12月20日(日) 仙台サンプラザホール

12月24日(木) 中野サンプラザホール

http://www.vap.co.jp/ohno/blog/info/

『ピクサー・イン・コンサート』

2016年2月6日(土)、7日(日) 東京国際フォーラム

2016年2月28日(日) 大阪フェスティバルホール

http://www.disney.co.jp/eventlive/pixar-concert.html

『ディズニー・ファンタジア・コンサート』

2016年4月29日(金)、30日(土) 東京国際フォーラム

2016年5月3日(火) 愛知県芸術大ホール

2016年5月7日(土) 大阪グランキューブ

http://www.disney.co.jp/eventlive/fantasia.html

http://www.kyodotokyo.com/fant-tkt

『渡辺宙明卒寿記念コンサート』

2016年3月5日(土) 渋谷区文化総合センター 2016年5月15日(日) 新宿文化センター

http://www.3scd.net/%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%82%BA%E4%BC%81%E7%94%BB%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%88-http-www-3s-cd-net-concert/

『ゴジラ音楽祭in京都 〜伊福部昭没後10年に寄せて〜』

2016年5月2日(月) 京都ロームシアター

http://www.century-orchestra.jp/concert/special.html#a20160502